レンタルショップ AYATSUTA
オリジナルSS - 2022年04月23日 (土)

首都のある街の一角に、10階建てのマンションがある。
1Fと2Fがテナントになっている、よくある普通のマンションだ。
その2Fには、『レンタルショップAYATSUTA』という貸衣装屋がテナントとして入っている。

この看板が目印で、この1店舗だけの会社だが、マンションのオーナーが社長を務めているため、潰れることはない。

もっとも、「大抵の衣装はここで揃う」「コスプレの品揃えなら日本一」と評判で、AYATSTA単体で見ても経営状況は悪くない。
そんな貸衣装屋だが、一部の人間だけが知っている貸衣装屋とは別の裏の顔があった。


今日もまた、一人の客がAYATSUTAの裏の顔を目当てにやってきた。
閉店が近い時間のせいか、客は2~3人と少なかった。
客の女性がキョロキョロしていると、店員が声をかけていた。




緊張しながら探し物を伝えると、店員は何かを察したように優しく微笑んだ。



店員は特異な注文をする女性客を店舗の裏にある事務所スペースへと案内した。




いかにもな事務所の中に、二人掛けのソファを向かい合わせた一応の応接スペースで待たされること5分。
一人の男がやってきた。


真寿田と名乗る男は、オーナーらしく高級なスーツや時計をして身なりは整っていた。
しかしその容姿はお世辞にも整っているとは言えず、ニヤケた感じもあって生理的に受け付けないタイプの男だった。








この質問の意図は、依頼には難易度相応の報酬が必要なのであれば、出来ない依頼には払えない報酬をふっかけ、依頼自体を取り下げさせることで100%の成功率を維持しているのではないかという勘繰りの意味合いが含まれていた。







**** 数日前 ****

沢井魅九は学生時代の友人である女刑事、如月冬華に相談していた。


魅九の相談は、それを実行すれば魅九が逮捕される可能性が高い内容だった。
本来、刑事にする話ではないことは魅九自身も理解していたが、他に相談できるほど信頼している相手はいない。
そんな魅九の心情を察してか、冬華はあることを教えてくれた。










*************
その時、魅九は報酬の内容がセックスであることを聞いていた。
知っていて尚、依頼をするためにこの店にやってきたのだ。






魅九の決意は固まっている。
だが、それでもセックスをするという行為にはどうしたって抵抗がある。
だから自分の背中を押すために、もう一度言葉で確約が欲しかったのだ。


にわかには信じ難いが、冬華の裏付けもある。
ここは信じてみようと、魅九は依頼内容を伝えた。
―――



魅九の依頼は陶器職人であった父の遺作が、父の師匠の手に渡ってしまい、父ではなく師匠名義で世に出されてしまう前に破壊して欲しいというものだった。
妻を早くに亡くし、男で一つで魅九を育てた父。
収入の安定しない陶器職人でありながら、大学まで出してくれた父。
そんな父の遺作が他人の名義で世に出され評価されるのは許せないと、そういうことだ。




魅九は依頼することを決めた。
自分ではどうやっても不可能なことを成し遂げてもらえるのなら、体を2回許すくらい耐えられる決意がある。
避妊しなくてもあとでピルを飲めばいいし、安全日でもある。
友達の紹介という希薄な裏付けしかないが、目の前の男からはやってくれると思わせる不思議な自信を感じた。


真寿田は店員に何か指示を出すと、3階へと案内した。
301号室の部屋に入るとそこはほとんどラブホテルの内装で、ここで依頼者が報酬としてのセックスを払ってきたのだろうことはすぐにわかった。



品定めして他の女と比較する。
あまりに失礼なことではあるが、これも報酬の内。
魅九は沈黙し、真寿田の望む通り抱かれるしかない。


こうして沢井魅九は今日初めて会った男、真寿田とセックスをした。



今日初めて会う男に抱かれるのも、目的の為なら耐えられた。
生挿入している真寿田は当然の如く中に射精したが、リスクを承知で取引を成立させた以上、魅九は黙ってそれを受け入れた。
2時間後、前払いのセックスが終わった魅九はシャワーを浴びていた。

冷静になって少し怒りと疑念も湧いてきたが、それはシャワーから出てすぐに払拭されることとなった。






手がかりゼロの状態からわずか2時間。
魅九にとっては信じられないことだったが、ともかく破壊さえしてもらえればそれでいい。
ふと、ここでもう一つ疑問が湧いた。



店員の女が扉を開けると、呼ばれていた人物が入ってきた。



破壊工作をする担当者。
それに対して軍人のようなイメージを抱いていた魅九にとって女性、それも若い人物が姿を見せたのは意外だった。







女スナイパーなど本当に存在するのか。
正直信じられない魅九だったが、ここまできたらなるようにしかならないと腹をくくり、座海についていくことにした。
決行は翌日で、迎えに来た座海と共に狙撃地点へと移動し、ライフルをセットする。


スコープを覗いた魅九はその陶器が父親のものであることを確認した。


それでは破壊します。危ないので、少し後ろに下がっていてください」

距離はおよそ600m。
この距離とターゲットの大きさなら確実に命中できると言う座海を信じ、魅九は固唾を飲んで待った。
―――バシュ!
割と大きな音で発射され、直後に座海はまたスコープを覗くように言った。

粉々になり原型を留めていない陶器の姿に魅九は歓喜する。



座海は依頼を果たす役割のほかに、依頼人が逃げないようにする監視役でもあったのだと魅九は気付いた。
成功報酬としてのセックス。
考えてもみれば、監視がいなければ依頼人が逃げることは少なくないはずだ。

魅九においては仮に一人だったとしても逃げなかっただろう。
それに無理難題を本当に完遂し、しかもこれほどの短期間でやってのけたことを見て、体を報酬とする異常さも納得できてしまうような気がしていた。




座海が退室し、部屋にはオーナーの真寿田と魅九だけとなった。






魅九は事後報酬のセックスを受け入れた。
二度目のセックスだからといって、嫌な気持ちがなくなるわけではない。
だが、無理難題と思われた依頼を、相手はしっかりと完遂してくれた。
真面目な彼女は、しっかりと約束を守ったのだ。





真寿田はここで初めて、右手の手袋を外した。
見たところ普通の手で、魅九からすればなぜセックスの時も外さなかったのだろうと不思議に思う。
だが、その理由は握手してわかることとなった。

素手で握手した瞬間だった。
真寿田から魅九に電流のような刺激が伝わり、彼女の脳を犯したのだ。


真寿田の右手。
それは触れた人間を自らに忠実な人形に変えてしまう力を持っていた。
触ると強制的に発動してしまう力なので、普段は手袋をしていたのだ。
ともあれ、沢井魅九は右手で触れられてしまった。
それはすなわち、彼女が真寿田に支配された人形になったことを意味している。
――――2週間後

『レンタルショップAYATSUTA』が入っているマンションに、新たな入居人がいた。

その人物の名前は沢井魅九。
新たな住人としてマンション306号室に入居した彼女は、これから表向きは女弁護士として今まで通りの生活をつづけながら、裏では真寿田の経営するAYATSUTAの人員として働くのだ。
そして当然のことながら、真寿田の好きな時にその体を抱かれる慰み者としても……。
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